おすすめされておもしろそうだったので読んでみた。 一見怪しげなタイトルだけど、いい本だったと思う。
自己啓発の教科書 禁欲主義からアドラー、引き寄せの法則まで | 書籍 | ナショナル ジオグラフィック日本版サイトによると、以下のような内容の本。
今日、自己啓発は数十億ドル規模の世界的な産業となった。だが、自己啓発は今に始まった現象ではなく、長い歴史の積み重ねがある。何千年もの間、哲学者や賢者、神学者たちが、良い人生とは何かを考え、それを実現するための戦略を練っていた。
著者アナ・カタリーナ・シャフナーは、自己啓発の核となる考え方を10パターンに整理し、それらが文化や時代を超えてどのように進化してきたのか、そしてなぜ今も私たちの心に響き続けているのかを明らかにする。
10パターンはそれぞれ章にまとめられている。
- 第1章 自分を知る
- 第2章 心をコントロールする
- 第3章 手放す
- 第4章 善良になる
- 第5章 謙虚になる
- 第6章 シンプルに生きる
- 第7章 想像力を働かせる
- 第8章 やり抜く
- 第9章 共感する
- 第10章 今を生きる
この10パターンに何か裏付けがあるのかというと著者独自の整理だと思われるが、「禁欲主義からアドラー、引き寄せの法則」に留まらず孔子や老子、こんまり、ニーチェ、FIREムーブメント、フロイトやユングなどかなり幅広い文献にあたった上で普遍性のあるパターンを抽出したもののようで、説得力はある。
パターン同士の関連性はおそらく薄く、順序に強い意味は無かったように思う。それぞれが概ね独立したテーマだと思って良さそうだった。
そしてテーマごとに様々な文献の内容を披露してくれ、基本的には紹介に留まり著者の思想へ強く誘導する意図は感じられない。 特に、対称的な主張の紹介は自分の思想が今どの位置にあるのか考えさせられる。 ただし、引き寄せの法則やストア哲学のようなある種の行き過ぎに対してはガードレールとなるような控えめな批判を欠かさない。 古今東西の思想に触れることで、自己啓発やひいては人生観、自己認識、歴史の流れを多少なりとも把握できたのも良かった。
その中で個人的に印象に残ったものとしては以下があった。
- キャンベルの単一神話論
- ハリスの幸福の罠
自然淘汰 や 適応 を 繰り返し て、 脳 は 心理的 な 苦痛 を 感じる よう に 進化 し た。 長い 時間 を かけ て、 私 たち の 心 は 危険 を 予知 し、 察知 し、 避ける よう に 訓練 さ れ て き た ので ある。 少し でも 早く 危険 を 察知 できれ ば、 それだけ 生き残る 可能性 が 高く なる。 その 結果、 出会う もの すべて を 見極めよ う と、 心 は 絶えず 警戒 する よう に なっ た。
- 【レビュー】幸福になりたいなら幸福になろうとしてはいけない | NLPと自己探求、成長の旅
- 幸福になりたいなら幸福になろうとしてはいけない: マインドフルネスから生まれた心理療法ACT入門 (単行本)
- 関係ないけど、農業革命は史上最大の詐欺だった!? 小麦によって家畜化されたサピエンスの真実/「サピエンス全史」思索日記Vol.3|イッチー/伊地知 悟も想起させる(なお、サピエンス全史は未読)
- 自分はこういうの好きなのかも
- タイの漁師と投資銀行家のたとえ話
- メキシコの漁師じゃなくなっていた
This parable circulates in different versions on the Internet (it is also sometimes called “The Mexican Fisherman and the Harvard MBA”). It often features in investment banking and entrepreneurial self-help manuals, with a slightly different ending. I have retold it here in my own words.
- ということなので、著者の趣味でタイの漁師になったのかも知れない
- ソローのライフコスト
彼 は「 ライフ コスト」 の 概念 について 語っ て いる。 人 は とにかく できるだけ お金 を 手 に 入れよ う と 働き、 手 に 入れ た 分 だけ、 め いっぱい 物 を 買お う と する。 ソロー は、 そこ に 問題 が ある と 考え、 順番 を 逆 に し た。 まず、 生きる ため に どうしても 必要 に なる もの を 洗い出し、 いくら かかる かを 計算 する。 そして その 基本 的 な 生活費 に 必要 な 分 だけ 働く こと を 目指し た。
ソロー は 1 年 単位 で「 ライフ コスト」 を 計算 し て い た が、 FIRE では 一生 分 を 割り出す。 FIRE は、 現在 よりも 未来 に 目 を 向け た 哲学 なので ある。
- ウォールデン 森の生活 - Wikipedia
- 社会面の「経済化」
- 検索してもそれらしいものをパッと見つけられなかった
メンタライズ に 苦戦 する もう 一つ の 理由 は、 自分 の 身の回り の こと に関して も 他人 との 交流 に関して も、 合理的 か どう かで 判断 する よう に なっ た から かも しれ ない。 社会 学者 は これ を 社会面 の「 経済 化」 と 呼ぶ。 つまり、 新自由主義 的 な 効率 化 が、 生活 の 隅々 にまで 影響 し て いる せい だ。 他人 との 付き合い でさえ、 損得 で 考える こと が 多く なっ た。 経営者 は「 社会資本」 について 語り、 共感 力 や 心 の 知能指数 などを、 コミュニケーション 能力 を 高める ため に 必要 な「 ソフト スキル」 と 呼ぶ。
- 仏教の中道
- 東西問わず過去の自己啓発は社会的なものだった的な話
- 社会を改善するために個人を改善するんだ的な話
- 結婚と家族のこれから を読んだ - 下林明正のブログを読んだときかTwitterかなんかで見かけた、いわゆる家を基本単位とした社会構成と家を改善することが社会の改善にも繋がる的な話に近いものを感じた。けど具体的な名称を忘れた……
そして、以下のような文章もある。
効率 化 の ため の 効率 化 は、 有意義 な 人生 を 送る ため の 青写真 には 使え ない ので ある。
しかし、当然ながら人生の目的までをこの本が教えてくれるわけではない。 人生の目的らしきものを示唆するいくつかの思想を示してはいるが、あくまで対比しているだけでどれが正解という話でもない。 となると、様々な考え方を紹介されたものもその中からどれを選び取っていくのか判断の指針を自分は持ち合わせていない、ということに気づく。
というところまで考えて、この本を読んでいる間に限らずここ数年は人生の目的というか方向性みたいなものに思いを馳せがちで中年の危機 - Wikipediaど真ん中っぽいということに気づいてきたので、そういう方向の本でも読んでみるか?という気分になってきた。
中二病が過剰な自己特別感の発露だとしたら、中年の危機は過剰な自己凡庸感への揺り戻しなんだろうか……今適当に考えたけど。
軽く調べてみた感じでは、これだ!という本が見つかっていない。
もう少し自分について掘り下げると、釣りさえやってれば人生幸せなのか??と思いつつ、仮に幸せだったとしてもどう生きていくのかとか、それで良いのかとか、あまり頭の中で整理できていない状態。 なんにせよ普通に世俗的な幸福追求が主要なテーマではあると思うけど、まだ自分の中で不確実性の時代や老化や死との整合性が取れてない気がする(気がするだけで、具体的には考えられていない)。 これもまさに今風の悩みという感じはあるので、「今を生きる」ということでマインドフルネスつながりもありそうな
あたりを読んでみるのも良いかも知れない。
最近は読書のペースも落ちがちなので、また気が向いたときに読んでみるという形になりそう。