いわゆるダイレクトリールがたまたま安く手に入った。
Shakespeare社のACME No.1904という機種で、MODEL HDと刻印されていたので シェイクスピアの珍しいリール | 流山ルアーズのブログ 《トップウォーターバス釣り》 の情報によると1937年製造の個体のようだった。
ダイレクトリールを渓流で使って楽しんでる人たちの存在は以前から知っていて、約90年前のオールドアメリカンリールをいじって軽量ルアーを投げられるようにできたら素敵やん?と思って自分も挑戦してみることにした。
ちなみに工学知識ほぼ皆無の人間が手探りでやってるのと、まだ魚を釣ってないので、参考にする場合は自己責任でお願いします。
また、参考資料として文中に貼っている自分のInstagramへのリンクは時系列が前後している点にも注意。
前提
ダイレクトリールにはクラッチが無いので、ルアーをキャストする際はギアを介してすべてを逆回転させながらキャストすることになります。
軽量ルアーを投げたい場合は慣性をある程度まで下げることが大事になってきますが、そのためには回転する部品の軽量化が必要になってきます。
かんたんに調べてみたところ、一般的にまず軽量化の対象になるのはハンドルとスプールのようでした。 他には、ギア類やラインガイドの軽量化などをする場合もあるようでした。
スプールの自作
まず、純正のスプールが44gあって明らかに軽量ルアーを投げるには不向きでエコノマイザー?アーバー?などでどうにかなる気もしなかったので、軽量浅溝スプールの自作からはじめることにした。
このあたりの情報を参考にさせていただきました。
色々細かい試行錯誤もしましたが、自分が独自にやったのは主に以下のようなことでした。
- スプールシャフトはステン棒をカットしたものを使用し、それ以外は3Dプリント品を使用
- 純正のスプールはギアも含めてすべてが一体になっているので再利用できる部品がなく、逆にシャフトさえ用意できればあとは3Dプリント品で特に問題ない気がしたので、コストと試行錯誤のしやすさを重視してそのようにしました
- ステン棒はを購入
- ステン棒のカットは以前自転車用に購入していたでがんばってみたところなんとかなりました(もともとそういう工具では無いとおもうので、非推奨)
- カットしたあとのステン棒はサンディングして長さや形状を調整するわけですが、ちょうど手持ちのリューターにステン棒がハマったので適当な棒ヤスリに回転させながら押し付けてやりました
- 正直かなり大変だったので、なるべく必要な長さギリギリにカットした方が良かったと思います
- ここに限らず電食の問題が起きないかは心配ですが、よく分かってないのでとりあえずスルー(長期保存する場合はバラしたほうが良いかも?)
- ギアもスプールと一体で印刷
- ギアはドライブギアに接続するヘリカルギアとクリッカー用のスパーギアの2つがスプールについてましたが、Fusion 360標準ではヘリカルギアはつくれなかったので、Helical Gear Generator | Fusion | Autodesk App Storeを使用
- ギアをつくるアドオンは色々あるようだったけど専門知識がなくて良し悪しが全然分からなかったところ、Fusion360用歯車作成アドインの比較(5) - Helical Gear generator, Helical Gear Plus - 歯車のハナシなどを眺めて大きな問題はなさそうだったので採用しました
- ただ、このアドオンはパラメーターをあとから再調整することができなさそうで試行錯誤にはやや不向きでした。Fusion 360の通常操作でなるべく調整するようにしたほうが試行錯誤しやすかったです(具体的には、おそらく本来はバックラッシュ値?などで調整するべきところを面のオフセットで調整した)
- 見た感じの雰囲気で適当にギアを再現したので回転がぎこちなかったけど、純正のドライブギアが真鍮製だったのでガンガン回しているとABSで印刷したスプール側のギアが削れていって馴染むという力技で突破しました
- 実際に魚を釣る場合は明らかにここが物理的弱点になりそうです。大きな魚を掛けたら壊れるかも
- あと、現場では気温変化や水を吸うことによってスプールが膨張してボディと干渉する可能性もありそうです
- ギアはドライブギアに接続するヘリカルギアとクリッカー用のスパーギアの2つがスプールについてましたが、Fusion 360標準ではヘリカルギアはつくれなかったので、Helical Gear Generator | Fusion | Autodesk App Storeを使用
- スプール自体は3つの部品に分けて印刷して、接着剤で接着する方法を採用
- サポート材をブランキングされた筒の部分から除去するのがあまりにも大変だったので、サポート材無しで印刷するように設計しました
- 左右の壁?にスプールの筒部分を差し込む形にすることで、たわみ強度もある程度確保できた、気がする
- スプールの深さはあえて浅くしすぎない形に
- 浅すぎるとバックラッシュしたときにすぐに隙間に入って糸噛みしてしまうので、あえて深くすると角度がついて隙間に入らなくなることに着目して、深めにしています。糸噛みはほぼほぼ発生しなくなりました
- 隙間をタイトになくそうともしましたが、スプールの軸ブレなども排除できない関係上ラインが入らないレベルまで詰めるのは難しいと判断しました
壁の厚みは場所によって変えてますが基本1.2mmで設計してて、大体これで10gほどの自作スプールをつくることができました。強度を犠牲にした極端な軽量化などもしてないつもりですが、ギアなど含めて大部分がABSなのが軽量化に寄与していそうです。
巻き心地は当然良くないですが、そもそもダイレクトリールがもともとさして巻き心地が良くないので個人的にはあんまり気にしてません。
スプールだけを交換して、ガン玉をスポンジで包んだ3.8gのウェイトをキャストしたところ飛距離はだいたい、
- オーバーヘッドキャスト: 7~9m
- サイドキャスト: 5~7m
ほど記録によると飛ばせてたようです(安定して投げられるのが下限値)。 これだとさすがに実用は厳しそうだったので、ハンドルも自作することにしました。
ハンドルの自作
このあたりの情報を参考にさせていただきました。
まずはABSでプロトタイプをつくってみました。軸間は適当に40mmで。自分の場合は参考情報から若干構造を変えて、適当な手持ちのネジを3Dプリントしたネジ頭のようなものがついたシャフトにねじ込むようにすることでハンドルノブをハンドルに固定するようにしました。 強度的な不安はなくはないですが、横方向(ハンドルノブを横に引っこ抜くような方向)に力をかけることはあまりないだろうというところと、縦方向(ハンドルを回す方向)への力は金属のネジががんばってくれるだろうということで、採用してみました。
構造上ややハンドルノブを薄く作る必要が出てきて見た目にも影響するわけですが、作りやすさを重視して一旦スルーしました。このあたりは最悪あとからでもなんとかできるはず。多分、きっと……。
プロトタイプでキャストしてみたところキャストフィールはかなり良化したので、JLCPCBを使って金属プリントを発注してみました。自分の場合、発注したタイミングが悪かったのか印刷が終わるまでに1週間ほど、そこから届くまで追加で1週間ほどかかりました(ネットで調べた感じ、他の人はもと早くゲットできてそう)。 お値段は初回クーポンを使って送料込みで$3.5で激安でした。クーポン無しだと$11.5くらいだったのかな?送料もなんか安くなってたっぽいので平常時がいくらくらいかかるのかいまいち分かってません。
届いたハンドルは多少のサンディングは覚悟してましたがそのままポン付けできました。ハンドルの全重量は約7.7gなので、この手のハンドルとしてはやや重めです。まあ、軽量化とか全然考えずにとりあえずつくったのでこんなもんでしょう。
上に貼った動画のハンドルは同じくJLCPCBで金属プリント(多分同じステンレス)したものが動画内で6.8gと紹介されてて、Shakespeare用カスタムパーツ | Tiny Handle No.3- オールドリール専用開発 カルクトーク Fishing shopはジェラルミン製で4.9gということなので、多分それくらいが強度を残した軽量化の限界になるのかなと思ってます。
実際にキャストしてみたところ、キャストフィールはプロトタイプからは4gほど重くなってることもあってやや悪化しましたが、純正ハンドル(12.2g)と比べると明らかに良くなっています。
飛距離は記録によると、3.3gのウェイト(スプールの自作のときより軽くなっていて、空気抵抗も減っている点に注意)で、
- オーバーヘッドキャスト: 11~15m
- 参考: 手持ちのベイトフィネスリールでは安定して15m
- サイドキャスト: 7m~10m
- 参考: 手持ちのベイトフィネスリールでは安定して10m
- バックハンドキャスト: 9~11m
- 参考: 手持ちのベイトフィネスリールでは安定して12m
くらいでした(下限値が安定して出せる飛距離。さらに正確には後付したマグネットブレーキの影響があるんですが後述するようにほぼ影響ないものとして)。 この間に結構キャス練したので、ある程度自分の親指が鍛えられてるのもあるかも。
これくらいなら、狭い川なら使えなくもないかな?という気持ちになってきました。
なお、ハンドルを軽量化していく場合はプロトタイプのハンドルにキャストフィールが近づいていくものと思われますが、飛距離的には+0.5~1mくらいで、あとは投げる際に今よりも多少気を使わなくても良くなるくらいの差になるかなと見ています。 ハンドルが重くなった分やや初速を高めて後半はサミングを強めにかけて慣性を止めてやるという動きが必要になってくるのがやや気を使うポイントです。
マグネットブレーキの自作
ソルトベイトフィネスに激安で入門する方法とその感想 - 下林明正のブログのときのマグネットが手元にあったので、メカニカルブレーキ?キャストコントロール?が無い機種だったこともあって、マグネットブレーキも自作してみることにしました。
ぶっちゃけマグネットブレーキの原理はよく分かってないので検索してください。N極とS極が交互にくるように設置すると良いらしい……??
スプール側の金属板はアルミ缶を板状にして、3Dプリントしたガイドを画鋲で固定して、カッターナイフでぐるぐる傷を入れてカットして、接着剤で貼り付けてます。 当然そんなつくりかたなので凸凹に歪んでいて、ブレーキとのクリアランスは大きめに取る必要があります。
他には以下のような点を工夫しました。
- ブレーキユニット自体を磁石で本体から脱着できるように
- 磁石を二重にすることで磁力を強めに
- 磁石ホルダー部分に穴をあけておくことで磁石を脱着しやすく
ってところでしょうか。
マグネットブレーキは強すぎると特に弱い力で投げたときにのキャストフィールが露骨に悪化したので、邪魔にならない程度の強さに弱めています。 おそらく、ルアーが空気抵抗で失速するよりも弱いブレーキが大体かかってる感じになってそうです。 なので、サミングをミスった時のバックラッシュの程度がマシになるお守りみたいな感じの存在です。 言い換えると、サミングしないと絶対にバックラッシュします。
これは最新のベイトリールでもそうなので、そういうもんでしょう。
感想
やってみて一番良かったことは、ダイレクトリールが渓流で使えるかも、ってところでは正直なくて、試行錯誤する過程で得られたベイトキャスティングに対する理解かなーと思います。
0BBでスプールがフリーにならなくてもルアーの空気抵抗が大きければ問題にならないんだなとか、スプール周りの慣性がめちゃくちゃ重要で低ければ良いというものでもないとか、意外と人間の親指は繊細にできてるんだなとか、単純なリール故に色々と思い知ることができました。
いじるのは正直かなり大変だったので、古くてかっこいい丸型リールが欲しいだけならアンバサダーとか人気の機種を買って社外品をポン付けするほうが絶対に手軽で性能も出て良いと思います(どうしても渓流ダイレクトフィネスをやりたい!という場合はそういう選択肢は無いかも?ですが)。 かかる費用は、いじる手間に比べたら誤差みたいなもんだと思います……。
あと、ギア比はどうしても低いので今風のアップクロスの釣りは厳しそうな気もしています。
自分の場合仮に渓流で使うとしたらそもそも全然渓流で釣れてないので、釣り上がる時は現代のベイトフィネスリールを使って、帰り際釣り下がるときにダイレクトリールを乗せてみて風情を楽しむとか、そういう感じかなーと今のところは思ってます。 ダイレクトリールというかロープロファイルじゃないリールはオフセットハンドルにした方が良さそうなので、そうなると丸型の現代ベイトフィネスリールも欲しくなってきてしまいそうな気もしていますが……。
まだ色々といじるネタは思いついてますが、多分ここから劇的に性能自体は変化しないんじゃないかなと思ってます。
まあとりあえずそんな感じで、ざっくり誰かの参考になりそうなところを書いてみました。

