下林明正のブログ

個人的かつ雑多なブログです。

正しいものを正しくつくる を読んだ

積ん読状態になっていたんだけど、要求定義・要件定義に興味があって周囲の評判も良かったのでまあ読むかとなった。

従来のソフトウェア開発とは、「既に正解があり、記述された正解をそのまま形にする」というものづくりであり、いかに効率よく作るかという観点が主眼でした。そのため、正解の見えないなかで手探りで進んでいくことが必要となる不確実性の高い現代においては、うまく噛み合わない状況になっている開発現場も少なくありません。

アジャイル開発がなぜ必要なのか、アジャイル開発をどう実践するのか、アジャイル開発を実践するにあたってどんな壁があってどうやって乗り越えればいいのか、といった雰囲気の本。 同著者のカイゼン・ジャーニーとかは昔読んだことがあるけど小説風なのが賛否が分かれるところだったので、あれが肌に合わなかった人はこっちを読めばいいと思う(内容も正直かなり被っていて、こっちのほうが先進的だと思う)。

この手の他の本との個人的に主要な差分は、ユーザーストーリーの切り方について言及している点と、プロダクトオーナーの役割について具体的に言及している点だと思う。 スクラム自体が割とプロダクトマネジメント的な領域についてはあまり言及していないフレームワークなせいか、そういった情報がスクラムと統合的に語られていることは自分はあまり見たことがない。

プロダクトオーナーの職務を「なぜこのプロダクトを作るのか」 という方向性の番人として、「プロダクトの世界観を実現するために何を備えるのか」 という仮説の番人として、そして「プロダクトを形にするために必要な運用スキルと知識」 の3つに分けて整理

(ユーザーストーリーの切り方は一言でまとまってはいないので引用なし。)

その他個人的に覚えておきたいと思った点をメモっておく。

ゴールデンサークルとは、サイモン・シネックが提唱する思考と行動のフレームワークだ。TEDでも紹介されているからご存知の方も多いだろう。簡単に説明しておくと、人に何か行動を促してもらうためには、まず目的(Why) を伝えることから始めて、次にその目的を実現する手段(How)、さらに具体的な行動や製品(What) を伝えるという流れのフレームだ(図8)。

なぜ、アジャイルに作るのか」という問いは、Howが既にありきの状況になっている可能性が高い。これは、ゴールデンサークルの考え方に反するものだとわかるだろう。本来問いたいのは、「自分たちのプロダクトづくりとしてありたい姿はどのようなものか?」 である。

Whyから入ろうは当たり前だけど実際はHowから伝えちゃうのやりがちだと思うので、こういう単語を覚えておいてブレーキをかけたい。 あとあんま関係ないけど組織変革みたいなのやる力が自分には全然無いなと常々思っているので、組織行動開発学みたいなのも勉強したい気がしてきている。

「不確実性のコーン」 モデル(図6) として知っているかもしれない。不確実性のコーンは、スティーブ・マコネルが『ソフトウェア見積もり( 14)』という書籍で提示した概念

不確実性コーンの話は良くするけど元ネタ実は知らずに話してたので教養として覚えておきたい。

プロダクトオーナー代行とは、名前のとおりプロダクトオーナーの仕事を一部代行するイメージだ。第4章で見たように、プロダクトオーナーに求められる職能は幅広い。すべての経験を一人で持っていることはまれだろう。また、プロダクトオーナーが十分に開発チームとのコミュニケーションに時間が割けない場合が現実的にはままある。

こうしたプロダクトオーナー代行という考え方が必要になるのは、プロダクトオーナーの負担分散以外に別の事情がある。リモートワークで開発するメンバーや、副業のような形態で開発に関わるメンバーが現場に増えてきたことで、現代においてチームは分散する傾向にあるという点だ。チームの分散化は、お互いの分断を生み、コミュニケーションの複雑化につながる。ひとところに一度に人が集まるのが困難で、スクラムイベントすら開催できない場合もある。そういう状況下で、プロダクトオーナーという役割を一個人で務めていくには限界がある

代行のような存在は、「プロダクトオーナーは一個人である」とするスクラムでは許されない。だが、仮説検証による学びの共有ができれば、この原則は突破できる。プロダクトオーナーなる唯一絶対の存在の民主化。こうした行為は、アジャイルを越える挑戦と言えるだろう

このあたりの話はかなり重要だと思う。 2020年版のスクラムガイドではプロダクトオーナーは 1 ⼈の⼈間であり、委員会ではない。となっているけど、あまりにスーパーマン過ぎて個人的には非現実的だと思う。 自分が受けた認定スクラムマスター研修でもプロダクトオーナーチームの概念が導入されていた。 自分自身も、こういう穴を埋められるようなロールを目指すのが良いのだろうなと思っている。

そんな感じで、現場レベルからちょい上のところまでこの本はカバーしていると思うので、こういう系の本を読みたがってるとりあえず何読めばいいですかと聞かれたらおすすめできる本だった。 自分もまた読み返すことがありそう。